認知症高齢者が増加する今、認知症看護を専門的に学びたいと考える方は増えているはず。埼玉県蓮田市にある認知症専門病院「蓮田よつば病院」では、多職種がチームを組み、「身体拘束ゼロの認知症ケア」の実現に向けて取り組んでいるそうです。看護部では、未経験から認知症看護を深めていける教育体制を用意し、結婚・出産を経て年齢を重ねてもいきいきと働ける職場づくりを進めているらしいので、さっそく見学に行って確かめてきます。
- 形 態
- 認知症治療専門病院
- 所在地
- 埼玉県蓮田市/蓮田駅
- 病床数
- 120床(認知症治療病棟入院料)
玄関
「蓮田よつば病院」へのアクセスは、「蓮田駅」と病院を結ぶ無料送迎バスに乗って約5分。駅から少し離れた立地ですが、車通勤者のために広い職員用駐車場が設けられています。玄関では、佐藤看護部長が笑顔で迎えてくれました。「ようこそ!当院は認知症専門病院として、入院の受け入れだけでなく、もの忘れ外来・重度認知症デイケア・訪問看護など、さまざまな取り組みを行っています。今日はゆっくり見学していってくださいね」。
エントランス
玄関を入ると、重度認知症デイケアの利用者様の素敵な作品が飾られていました。退院後はデイケアを利用される患者様もいますか?「ええ、当院の役割は、認知症を抱える方が住み慣れた地域での生活を再開できるようお手伝いすることですから、認知症に関する困りごとへの治療を行った後は、デイケアなどの在宅部門と連携し、再び地域に戻っていただくためのサポートを行っています」。
病棟
お次は、病棟を案内していただきました。開放的で明るい雰囲気ですね。「そうでしょう?認知症専門病院と聞くと、閉鎖的で暗いイメージを持つ方が多いようで、見学者の方によく驚かれます。当院は基本的に身体拘束を行わない方針なので、患者様は抑制のないその方らしい生活を送ることができ、私たち職員も明るい気持ちで仕事に取り組むことができているんですよ」。病棟の床は絨毯で、散歩やリハビリに最適とのこと。
デイルーム
デイルームでは、看護師さんと患者様がコミュニケーションを取っていました。「『良いケアができると患者様の介護抵抗が減り、スタッフも楽になる』という好循環を目指し、患者様と向き合う際は『ユマニチュード』というケア技法を用いて、安心感を持っていただくことを大事にしています。言葉の理解が難しい方でも、こちらが視線を合わせて笑顔で関わっていくと、自然と笑顔を見せてくれるようになるんです」と、看護師さん。
病室
病室で、介護福祉士と認知症ケア専門士の資格を持つケアスタッフさんにお会いしました。「病棟には看護師とほぼ同数のケアスタッフを配置し、看護師の頼れるパートナーとしての活躍を期待しています。他院では看護補助者と呼ばれる職種ですが、当院では介護の専門職として自律してほしいのでケアスタッフと呼び、入職時は無資格・未経験でも働きながら介護や認知症に関する資格を取得できるよう応援しています」と、看護部長。
生活機能訓練室
お次は、作業療法士さんが活躍する生活機能訓練室へ。「こちらでは、認知機能の低下の抑制に効果的と言われる趣味活動や脳トレを行っているほか、昔懐かしい写真などを飾って『回想法』を取り入れています。先日は、患者様が幼い頃にザリガニ釣りを楽しんだというエピソードから、ザリガニ釣りのレクリエーションを実施しよう!ということになり、作業療法士が近くの土手でザリガニを捕まえてきてくれました」。
浴室
浴室には、ドーム型のシャワー入浴装置「アラエル」が設置されていました。「要介護度の高い患者様も多いですから、職員の負担を少しでも軽減できるよう、最新の介護設備を積極的に取り入れています。病棟には、腰痛対策として介護専用に設計されたパワーアシストスーツ『フレアリー』も導入していて、負担の少ない快適な職場づくりを進めているんです」。
廊下
病棟に戻り、他の病院を定年退職後に入職したプラチナナースさんを紹介してくれました。「当院は定年年齢を70歳に延長し、看護経験も人生経験も豊富な50代・60代のスタッフも歓迎しています。認知症患者様はご自身で体調不良を訴えられない方が多いので、ケアをする側の『いつもと違う』という気付きがとても大切で、プラチナナースたちの長年の経験で培ってきた観察力を、当院で活かしてほしいと考えています」と、看護部長。
職員食堂
つづいて、看護部長おすすめの職員食堂を案内してくれました。「手作りランチは1食150円とリーズナブルで、おいしくてボリュームも満点!毎日多くのスタッフが利用するので、あちらに大きなモニターを設置して、お昼休みに研修動画を流し、ランチョンセミナーのような感覚で気軽に学習できる環境を整えました。もちろん対面研修も行っていますが、参加できないスタッフのために工夫しているんですよ」。
納涼会の様子
「先日は、職員食堂で職員の納涼会を行いました」と、写真を見せてくれました。「納涼会では美味しいお料理をみんなで食べた後、部門ごとのチーム対抗でクイズ合戦・クラッカーの早食い競争・握力測定大会などで盛り上がりました。見事優勝したのはデイケア・訪問看護チームで、院長(写真左)が表彰式を行ってくれました」。院長は気さくで飾らない人柄で、スタッフとの交流をとても大事にしているそうです。
託児室
最後は、病院から徒歩3分の「さくらんぼ託児室」へ。「保育対象は生後2カ月~未就学児で、小さなお子さんがいても安心して働ける環境を整えています。私も長く仕事と子育てを両立してきて、子どもとの時間を大事にしたいママさんの気持ちがわかるので、多様な働き方の選択肢を設け、希望休にはできる限り寄り添っています」と、看護部長。子育て支援も整っていますね。今日はありがとうございました。
帰り道
――お疲れさまでした。「身体拘束ゼロの認知症ケア」を目指す認知症専門病院、いかがでしたか。
- 認知症専門病院で身体拘束ゼロを実現できるの?と半信半疑でしたが、スタッフ一人ひとりの意識改革や倫理教育が進んでいて、常にほぼゼロを維持していました。「私たちは大切な人に自信をもってすすめられる病院をつくります」という理念を実現するため、看護部だけでなく、全部署のスタッフの協力を得ながら取り組んでいるそうで、「その人らしさ」を尊重した認知症ケアを提供できていることが、スタッフの皆さんのモチベーションにつながっているそうです。
――どんなスタッフが活躍していますか?
- 20代から60代まで、さまざまな年齢・性別・キャリアのスタッフが在籍しています。認知症看護が未経験の方も歓迎していて、介護職や准看護師から看護師の資格を取ったばかりの方や、育児などで長いブランクがあった方、定年退職前後のプラチナナースなども複数名活躍していました。
――では、ここはちょっと、というところは?
- ケアスタッフだけでなく、看護師も積極的に食事介助・排泄介助・入浴介助などに入るため、介護的業務が多い職場は苦手という方は合わないかもしれません。ただ、介助負担の軽減に向けて、最新技術を積極的に活用していて、特にパワーアシストスーツは腰痛対策に役立っているのだとか。
――最後に、ここだけの話をひとつお願いします。
- 看護部長としては、よりケアの質を高めていけるよう、認知症看護認定看護師を育てていきたいそうです。キャリアサポートの一環として資格支援制度の確立を目指して、希望者がいればバックアップしていきたいとのことでした。
認知症ケアに興味があり、未経験から深めていきたい方
結婚・出産を経て年齢を重ねても、いきいきと仕事がしたい方